回帰分析(第2回) 店舗スタンダードを算出
小売業態データ分析の基本
売上高の公式
売上高=客数×客単価
客数=顧客数×来店回数
客単価=一品単価×買上点数
1顧客あたり売上高=来店回数×客単価
店舗合計売上高=1顧客あたり売上高×顧客数
先日のこと、ある大学生にある小売店の概況を説明しました。その際、まっ先に説明したのが売上高の公式です。(大学生いわく、このような公式は知らない、ブルーオーシャンとかレッドオーシャンとかは知っていました。)言い換えると売上高は「客数」と「客単価」の2つの変数で説明できるわけです。
小売業者様に話を伺ったり、各種データを分析すると、じっさいに小売店舗が苦戦しているのは客数です。客数のなかの顧客数、顧客数のなかの固定客数(ポイントカード会員)、固定客のなかの30代~50代(ファミリー層)の減少が目立ちます。
客単価はどうかというと、2014年にジャンプアップして以降は横ばいです。2014年の食料品消費者物価指数は前年から3.8ポイントアップしています。ちなみに2014年は消費税率が変更になった年です。この年は小麦など原材料価格の高騰もあり、原価高をうまく価格に転嫁できた小売店が客単価アップに成功しました。
<データ出典>
政府統計名 消費者物価指数
提供統計名 2015年基準消費者物価指数
提供分類1 長期時系列データ
提供分類2 品目別価格指数
提供分類3 全国
提供分類4 年平均
中分類指数 前年比
小売店舗のスタンダード
小売業の方と話をしていると「あそこの店の売上はどんな感じ?」とよく聞かれます。聞いてる側は何を考えているのかというと、他店と自店を比較して自店のポジションを確認したいようです。
自店ポジションというのは他店の売上高が前年並なのに自店は前年を下回っているとか、だったら頑張りが不足しているとか、他店の不振に内心安堵したりとか、マーケットのなかで自店がどのような状況にあるかのことです。
他店と比較してというのはもちろん重要です。競争をしているから他店のことが気になります。ところが他店との比較で自店のポジションを確認すると「他店も不振だから自店の不振も当たりまえ」というような傷をなめあうような結論に至ることがあります。
それでは、自店のポジションを確認する別の方法があるのでしょうか。マーケットデータと自店の実績「妥当な線」との組み合わせでポジションを確認するためのスタンダード(目安)を考えてみます。
商圏規模から売上高スタンダードを算出
政府統計データを活用する
店舗が立地しているマーケットの情報を把握します。さまざまなデータを行政が公開していて、いわゆるマーケットのデータを無償で入手することができます。
今回も食料品スーパーを題材にするので、調べるのはスーパーが立地している地域の食料品支出金額と世帯数です。
(以下、出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)(https://www.e-stat.go.jp/))
政府統計名:家計調査
提供統計名:家計調査
提供分類1:家計収支編
提供分類2:二人以上の世帯
提供分類3:詳細結果表
表分類:<品目分類>1世帯当たり年間の支出金額,購入数量及び平均価格
統計表名:都道府県庁所在市別
表名区分1:二人以上の世帯
年:2017年
表は、必要部分のみを表示しています。(引用、ここまで)
全国52都市の消費支出額が都市別・品目別に記載されています。
店舗の所在地または近い都市を選択してください。今回の分析では神戸市をを選びました。品目は魚種(あじ・さば等まで)のように細分化されています。ですから、青果・鮮魚・精肉のような部門別から更に品目まで自店の売上高と地域の消費支出額とを比較して自店のポジションを確認することができます。
1世帯あたり支出金額を算出する
データのなかの神戸市を例にします。
当店は小売店舗ですから、まず、食料の合計には外食が含まれているので外食を除外します。
食料支出金額=914,950円
外食支出金額=171,150円
スーパーマーケットで購入するであろう食料品額(年間)=914,950円 – 171,150円 = 743,800円
1世帯あたり支出金額(月間)=743,800円 ÷ 12か月 = 61,983円
さらに、スーパーが立地する1km圏内の世帯人員数で調整します。
マーケットの世帯人員数は2.20(この数値は国勢調査データに基づきます)です。神戸市の世帯人員数が2.75なので係数は0.8(2.20 ÷ 2.75)です。人口ではなく世帯数をつかう理由は、買物をする財布は1家に1個と考えるからです。
2.20 ÷ 2.75 = 0.8 × 61,983円 = 49,586円
算出結果が売上高の基本になるスタンダードです。当スーパー商圏内の1か月あたり1世帯につき食料品支出金額は約5万円です。
商圏規模=5万円×商圏内世帯数
もしも、商圏規模=店舗売上高合計になれば商圏内シェア100%です。完全な閉鎖商圏(実在しない)でのみ成立可能ですから、商圏規模=店舗売上高合計スタンダードではありません。
実質的なスタンダード
店舗売上高合計スタンダード=5万円×現在の顧客数
実質的なスタンダードは現在の顧客数が基本になります。
顧客数というのは、はじめの方程式「客数=顧客数×来店回数」に示されている顧客数のことです。
来店される顧客の財布に1か月の食料品費が5万円入っています。
その5万円の全額を当スーパーでの商品購入に充てていただければベストです。当スーパーで2万円なら残りの3万円はどこかのスーパーで購入しているのです。
ということは、顧客数が減少すると店舗売上高合計スタンダードが減少する。1人失うごとに5万円も減少します。ご購入額の2万円を失うのではなく5万円を失います。逆に2万円ご購入の顧客をキープしている状態であればプラス3万円の可能性が残ります。
回帰分析で顧客のスタンダード発見する
小売店舗の顧客売上高
yyyy/mm/dd | 顧客コード | 購入点数(月間合計) | 購入金額(月間合計) |
2018/06/01 | A | 10 | 2,000 |
2018/06/02 | B | 5 | 1,500 |
2018/06/02 | A | 3 | 700 |
POSレジからアウトプットできるデータのなかで、「日別顧客別月報」をイメージしてください。実際のデータはこの下に延々と連なっていて全体で約5万行あります。
回帰分析で使用するのは、
・顧客コードの列:各顧客が1か月間に来店購入した回数の顧客別カウント。
・購入金額の列:各顧客が1か月間に購入した金額の顧客別合計。
データをクロス集計します
顧客コード | 来店回数 | 購入金額 |
A | 18 | 35,000 |
B | 7 | 19,000 |
データをクロス集計形式へ変換しました。
左列に全顧客コードがならび、各顧客コードごとに月間来店回数合計、月間購入金額合計を集計します。今回は日付(yyyy/mm/dd)を使わない線形回帰分析をおこないます。
エクセルの場合はピポット、タブローでは顧客コードをcountする計算式でメジャーを作成して集計します。
分析方法と結果
散布図と回帰直線を描く
分析ツール:タブロー
データ:(ダミーです)食料品スーパーマーケットを想定しています。
期間:1か月
縦軸y:顧客別月間購入金額(単位:千円)を設定します。
横軸x:顧客別月間購入回数(単位:回)を設定します。
顧客をプロットしてから近似線(線形)を挿入します。
ベストスタンダードの顧客を見つける
当スーパー商圏内の1か月あたり1世帯につき食料品支出金額は約5万円でした。少し幅をもたせて月間購入額4万円~6万円をスタンダードにします。月間購入額4万円~6万円をリファレンスバンドに設定します。
店舗は1顧客あたり月間5万円購入を目指します。来店回数にかかわらず1顧客あたり5万円の購入が目標になります。従って、回帰直線がリファレンスバンドの中に入り込む形がベストスタンダードです。
回帰方程式:売上売価 = 2255.65*来店回数 + -8.96754
1回来店していただければ約2,250円の購入を見込めます。月間5万円を購入していただくためには(50,000円÷2,250円)22回の来店が必要です。
来店1回当たり2,250円お買上、1か月あたり22回来店、回帰方程式とリファレンスバンドがクロスする位置にプロットされているデータがベストスタンダードの顧客です。
住所・年齢・購入商品などこれら顧客を徹底的に分析します。リファレンスバンドから下にプロットされている顧客に月間5万円ご購入してただくためにはどのような施策が必要なのか?スタンダードとの比較によって明らかになることもあります。