生産性あれこれ per capita
労働生産性
新幹線の車内販売
東京を発車した新幹線、名古屋に到着するまでの間に販売した額
Aさん:10万円
Bさん:1万円
新幹線で東京駅から名古屋駅まで1時間30分ほどです。品川を発車した頃から車内販売を開始します。
実販売時間が1時間だとすると、
・Aさんの1時間あたり売上高は10万円です。労働生産性の1指標である人時売上高がAさんは10万円
・Bさんは1万円になります。
Aさんはよく売る優秀な販売員、Bさんは全くダメな販売員。果たして本当にそうなのでしょうか?
・Aさんが販売した新幹線の乗客数:1,000人
・Bさんが販売した新幹線の乗客数:10人
実際に新幹線1編成の乗客数が10人ということはありえない設定ですが、説明を簡単にするために極端な数値にしました。
・Aさんの新幹線乗客1人あたりの売上高:100円
・Bさんの新幹線乗客1人あたりの売上高:1,000円
このようになるとBさんこそが優秀な販売だと評価することが可能になります。もしもBさんが乗客1,000人の新幹線で販売すると、「乗客1人あたり1,000円×乗客数1,000人」お~~売上高は100万円。
新幹線の車内販売を利用する顧客は新幹線の乗客だけです。このような特定の状況における特定のマーケットのことを閉鎖商圏(クローズドマーケット)といいます。閉鎖商圏において生産性や販売力をはかる指標として「per capita」が有効です。
per capitaが有効な場合
人的販売力、商品力や価格等よりも何かの集客装置に大きく依存した商売であるような条件を満たす閉鎖商圏では、per capitaが販売力をはかる指標として有効です。
・テーマパーク、遊園地、スタジアム、映画館、競馬場、イベント会場などの娯楽施設内店舗
・ホテル、旅館などの宿泊施設内店舗
・駅、空港、病院、車内販売などの公共施設内店舗
乗客がガラガラの新幹線を担当した車内販売員に「売上が少ない」と叱りつけるのは気の毒です。テーマパークは典型的で、有料入場者しかいない完全な閉鎖空間です。入場料を払ってわざわざパーク内のレストランでの食事を目的に入場する人は基本的にはいないと考えても構いません。
集客のためのCMをレストランの店長が担っていることも、入場チケットを販売しているわけでもありません。ですから、売上高だけで車内販売員、テーマパークレストランの店長を評価するよりもper capitaで評価した方が適切な場合があるということです。
per capitaを算出できる条件
新幹線なら乗客数、テーマパークであれば入場者数のデータが必要です。一般的な客単価の分母は商品を購入したりサービスを利用した人数です。per capitaの分母は乗客数、入場者数や施設利用者数です。客単価とper capitaの違いは分母の違いです。
スーパーマーケットでは店に来た客数(財布の数)=購入者数で構いません。スーパーマーケットへは買い物にくるのですから。理容室、ハンバーガーショップなども同じです。新幹線の車内販売のばあい、乗車人数=購入者ではありません。新幹線へ乗車する目的は移動であってコーヒーやサンドイッチの購入が目的ではないからです。
<車内販売の場合>
客単価=売上高÷購入者数
per capita=売上高÷乗客数
per capitaと乗客数の関係
新幹線車内販売の場合、乗客数=マーケット規模であることは間違いありません。乗客が多ければ売れるチャンスも拡大します。ただし売上高と乗客数が完全に正比例するかというとそうではありません。
左図が乗客数と売上高の関係の例です。
・横軸が乗客数、縦軸が売上高です。
はじめは乗客数に比例して売上高は大きくなりますが、徐々に売上高の伸びは鈍化して上方硬直した曲線を描きます。車内販売で使用するワゴンへ積載できる商品量には限界があります。商品が売り切れたときはストック場所へ戻り補充することになるわけですから、その分の時間をロスします。
また、販売にあたり顧客と商品・代金のやりとりが発生します。売れれば売れるほど時間がかかり、全車両をまわることが不可能になることもあるでしょう。
販売できる時間が1時間と決まっているので、ある程度のところで売上高の上昇はストップします。テーマパークのレストランも客席数に限界があります。
右図の縦軸がper capitaです。「per capita=売上高÷乗客数」です。
売上高に限界があり、ある程度のところで売上高の上昇がストップするのでper capitaは右肩下がりの曲線になります。
ですから、もしもBさんが乗客1,000人の新幹線で販売すると、「乗客1人あたり1,000円×乗客数1,000人」従って売上高は100万円、このようにはなりません。