回帰分析(第1回)  迫る閉店Xデーを算出

回帰分析(第1回) 迫る閉店Xデーを算出

資本独立型地方食料品ストアが厳しい

老舗食料品ストアの閉店

 自宅近隣で営業していた老舗食料品スーパーマーケットが先ごろ閉店しました。当地で30年以上は営業していたように思います。店舗面積が1000㎡くらいでしょうか、いわゆる典型的な近所のスーパーでした。

 小売業の方々とのおつきあいが多いのですが。「ぼちぼち儲かっています」というような話は皆無ですね。コンビニでさえ最近はあちこちで閉店しています。このような状況のなかにあって特に厳しいのがチェーン展開していない独立資本型地方食料品ストア業態です。

 独立資本型地方食料品ストア業態はかつて市場で営業していた個人商店が協同組合として集合し、1980年代ころからスーパーマーケット形式に業態変更したものが多数を占めます。市場で軒を並べていた商店がコンクリート建物中に入り、各個人商店ごとに清算していた会計を集中レジ1か所にまとめる業態変更によって誕生しました。

 独立資本型が閉店するパタンは価格競争に敗れるというものがほとんどです。もちろんサービス・品揃えなどを含めた複合的要素によって閉店に追い込まれますが、目立つのはやはり競合店舗との価格差です。

 大企業チェーンであれば価格競争に耐えうる体力があります。しかし、独立資本型は大量仕入れで原価を下げるという多店舗チェーンオペレーションのメリットを享受できませんし、もと魚屋のオッチャン、八百屋の兄ちゃんが集合した共同組合ですから資本力がそもそもありません。現下の経済環境にあっては消費者が重視するのは価格です。

「大手はウチの仕入れ原価が売価」ある経営者の嘆きです。
メーカーや卸問屋から仕入れるよりもネットの方が安くて、ネットで仕入している方もいます。ポイントも貯まるし・・・

閉店に向かう売上高変動パタン

 このような食料品ストア業態の売上高推移を分析すると、売上高・顧客数が減少へ向かうパタンが見えます。パタンを発見する手法が線形回帰分析(Line Model)です。それも、時間経過を横軸、売上高を縦軸にするかなり単純な手法、単回帰分析です。

線形回帰分析(単回帰)とは

妥当な線

 雨が降るとスーパーマーケットの売上高は晴れた日よりも減少します。スーパーマーケットの売上高は、天候や季節の影響を受けて変化しします。
 歳末、お盆、節分、土用の丑の日のような歳時記には普段の2倍・3倍も売上げます。短期的にみると日々の顧客は入れ替わり立ち代わりしていますし、日々売れる商品も違います。

 長期的には、少子高齢化・人口減少も売上変動の一因になります。

このような様々な変化に富んだデータ群から数学的な「妥当な線」を算出する手法が回帰分析です。

回帰方程式の基本形

 回帰分析は結果になるデータと原因になるデータの関係を「回帰直線」で表現します。結果になるデータというのが方程式の「y」、原因になるデータが方程式の「x」です。

線形回帰方程式:y=ax+b

y:結果になるデータ(目的変数)
x:原因になるデータ(説明変数)
単回帰はxが1個、重回帰はxが複数個になります。

a:直線の傾きを示します(回帰係数)
プラスの場合は右肩上がりの直線、マイナスの場合は右肩下がりの直線になります。
b:「最小二乗法」で算出されます(切片)

線形回帰分析とは、「a」(回帰係数)と「b」切片を求めることです。

トレンド線ともいいます

 結果と原因との関係を表現しているということは・・・

「x」が1のとき、y=1a+b だから
「x」が2になれば、y=2a+b になるだろう!

 このように、「x」へ数値を代入すると「y」を予測することができます。ビジネスでは、実績値から「法則」を発見して「予測」することに活用されています。

 景気、企業業績、マーケット動向で、アップトレンド・ダウントレンドという言葉をよく耳にします。このトレンド判断の基礎になっているのが回帰分析です。

 回帰直線の未来部分(回帰分析では後方といいます)、時間軸の右側が上向きならアップトレンド、下向きならダウントレンドです。株価のトレンド判断にも回帰直線が取り入れられています。

回帰分析結果を解説

食料品スーパーマーケット日別売上高
単回帰 食料品スーパーマーケット日別売上高
チャート1


分析ツール:タブロー
 実際に回帰直線を描画しました。データは食料品スーパーマーケットの日別売上高25か月分(ダミーデータ)です。

 チャート1は横軸xが日付、縦軸yが売上高、水色の実線が日別売上高、赤色の破線が回帰直線です。結果は残念ながら回帰直線が右肩下がりですから売上高はダウントレンドです。

回帰方程式: 日別売上高 = -1545.5*YYMMDD の日 + 72759700

 回帰方程式の「YYMMDD の日」へ将来の日付(yyyy/mm/ddを数値形式に変換して)を代入することで当日の売上高を算出することが可能になります。「2019/10/1(数値形式で43739)を代入してみます。

日別売上高 = -1545.5*43739 + 72759700 = 5,161,075.5
予測売上高は約516万円です。

閉店Xデーを算出

 この店舗の1年後ごとに減少する売上高を算出します。うるう年を含めず1年を365日で計算します。

 回帰方程式の回帰係数が「-1545.5」ですから、単純に1日あたり1,545円分の売上高が減少します。1,545円×365日で算出できます。

1年後減少売上高 = -1545.5*365 = -564,107.5

 1年経過するごとに前年と比較して約564千円売上高が減少するということを方程式から導くことができます。

 企業には損益分岐点売上高があります。実売上高が損益分岐点売上高を下回ると基本的には赤字に陥ります。回帰直線を将来へ伸ばして、損益分岐点売上高とクロスする日が閉店Xデーです。

分析の視点

半年毎で十分
単回帰 食料品スーパーマーケット日別売上高2
チャート2


 チャート2は図1のデータの前方1か月を削除、後方へあたらしく1か月を追加して描画した回帰直線です。期間はチャート1と同様に25か月になります。つまり図1から1か月後の分析結果です。

 1か月前の回帰係数「-1545.5」にたいして今回の回帰係数は「-1543.17」になりました。1か月後の分析でもトレンドに変化ナシということです。

 食料品スーパーなら概ねどの店舗でも1か月ほどでトレンドが変化するということはありません。ですから回帰分析の結果、トレンドがどうか?というような確認は半年に1回程度で十分です。
 日々の売上高と格闘している経営者はトレンドがアップなのかダウンなのかははっきりと肌で感じています。トレンドはあくまで分析の結論ではなく、分析の入口・確認事項にすぎません。

 「予見するために観察する、予知するために予見する、科学から予測が生まれ予測から行為が生まれる」(オーギュストコント)

 回帰分析はある程度の精度で将来を予測します。分析は閉店Xデーを算出することには興味がありません。ダウントレンドになる仕組みを解明することに興味があるのです。それは行為が生まれることを目的にした分析です。

では、回帰分析結果のどこが重要なのか?

山あり谷ありを見る
単回帰 食料品スーパーマーケット日別売上高
チャート3


 チャート3はチャート2にリファレンスバンド(グレーの部分)を加えたものです。

 上部リファレンスバンドは8M(800万円)~データの最高値、下部リファレンスバンドはデータの最低値~5M(500万円)の幅に設定しています。分析結果で注意してみる点は、回帰直線そのものよりも、リファレンスバンドに飛び出している点です。

 チャート3の「ここから!」以降、当スーパーマーケットは明らかに変調をきたしていることがわかります。

① 上部リファレンスバンドに飛び出している点(山)の密度が薄くなっている。また、点の位置が過去と比較して低い。
売上を大きく獲得する「書き入れ時」をつくれないということです。

② 下部リファレンスバンドに飛び出している点(谷)の密度が濃くなっている。また、点の位置が過去と比較して低い。
売れない日はとことん売れない状況に陥っています。

①と②が同時的に発生しているから回帰直線がダウントレンドを示します。言葉が悪いのですがいわゆる「ジリ貧状態」です。

 山が低くなるというのは、例えば、年に1回の大バーゲン・大創業祭のような大型イベントの告知をしても、告知に反応して来店してくださる顧客が時間とともに減少しているということです。「呼べど叫べど」です。

 それはバーゲンの魅力が低下しているからというよりも、日々店舗を愛用していただいている顧客が減少しているからです。
 また、大バーゲンは普段店舗を利用していない顧客に来店していただくチャンスでもあります。

 大バーゲンで集客した顧客のうち、大バーゲン後に何%の顧客が継続して来店してくれるのかを継続率といいます。継続率が一定ならとうぜん山がが高いほど継続顧客数は多くなります。サプリメントの初回2箱無料!と同じ原理ですね。残念ながら山が低いので継続率が一定であっても継続顧客数は減少しています。

 谷が深く回数が多くなるのも顧客数減少が原因です。
 大バーゲンで購入すると冷蔵庫が満タンになります。2~3日は買い物をしません。顧客数が減少すると、大バーゲンでなくてもちょっとしたセールの翌日にたちまち反動がでます。顧客数が多ければ大バーゲンやセールに来店できなかった顧客の来店がありますから彼らが谷を埋めてくれるのです。

 集客手段を失うことで大きな山がつくれない。大きな山ができないから日々の顧客が減少する。そして山が低くなる・・・山が低く谷が深くなるから回帰直線が右肩下がりになる。

負の連鎖をビジュアル化している

 重要なのは回帰直線が右肩下がりになっていることより、右肩下がりになっている仕組みを解明すること、そして山そのもの、谷そのものの分析へ切り込んでいく。25か月にも及ぶデータ群のなかのわずかな点に注目すると回帰分析結果から店舗の課題を発見することができるようです。

1日あたり1,545円分の売上高が減少

 「1日あたり1,545円分の売上高が減少」へ戻ります。一般的な食料品スーパーの客単価は1500円~1700円です。

1日ごとに1人の顧客を失っている

このように解釈できます。